設立趣意書

 刺絡鍼法を理解して戴くため1990年故島田隆司先生が会報「刺絡」に執筆された刺絡鍼方についての文章の一部を紹介します。

 刺絡治療の復権と普及を目指して 鍼灸医学はそのすべての流派と学派の淵源を『黄帝内経』と言われる『素問』と『霊樞』に由来している。この二つの書物は、それまでの数十万年間、中国大陸で培われて来た生命観、自然観、そこから生まれて来た思想及びその具体的な現れである技術、の医学における集大成になっているからである。言うなれば中国思想の最も基本的な特徴である“気の思想”の医学における具現がこの『黄帝内径』であると言うことができる。したがって『黄帝内経』以降のすべての医学理論と医学技術はこれを出発点としており、二千年たった現代も尚、その原則は変わらないし、今後も変わらないと考えられる。

 しかも、その『素問』と『霊樞』の結節点とも見られる『霊樞・九鍼十二原篇』には次のように書いてある。「およそ鍼を用いる者は、虚するときはこれを実し、満するときはこれを泄し、宛(鬱)陳するときはこれを除き、邪勝つときはこれを虚しくせよ」と。鍼灸の治療原則はこの四つが基本になっていることを示している。この中の「宛陳(ウッチン)するときはこれを除け」というのは、古くなって滞っているものがあれば、これは必ず取り除かなければならないと言う意味で、明らかに我々の言う“刺絡治療”を指している。

~中略~

 刺絡治療の効果は自分でこの治療法を実行してみなければなかなか分からない。一度実行してみれば、それがどんな力を持っているかが分かる。 『霊樞・九鍼十二原篇』に治療効果は「風の雲を吹くがごとし」という表現があるが、正に刺絡治療の効果はこの表現がぴったりする劇的な著効を呈することが少なくない。これほど優れた治療を現代に生かさない法はない。しかも、中川 節氏の研究(第1 6、第1 7回日本経絡学会に発表)によれば、 「刺路は“血路”即ち血脈と経脈との結節点である絡脈や孫絡に留滞した血を動かすことで気を巡らし、経気の運行の通路である経絡系統の機能を調え、去邪治病の効果を脅すものである。」と言い、この刺絡治療を単なる標治法として、鍼灸治療の中での補助的な治療と位置付けることが誤りであり、むしろ「鍼灸学の核心となる主要な理論体系の構成部分であり、根幹の一つ」とすべきである指摘している。

 刺絡治療を我国に普及していくことの意義は非常に大きいが、そのためには治療体験の集積、治療法の一層の研究、文献的な整理、理論的な発展も必要である。また現代科学によるその作用機序の解明もしなければならない。そして何よりも刺格治療の優れた治療家を育成しなければならない。今回発刊するこの小冊子"刺絡"が、そのための一助になればと念ずる次第である。